壁を設けることは、「閉じる」ということではなくてむしろ、広がりを得ること。プライバシーを確保し、防犯性にも優れたコートハウスは街中にありながら、開放感あふれる空間を実現してくれる。

 

内側に開けた空間

コートハウスとは、道路に面した側に開口部の少ない壁をつくり、建物の内部に庭を設ける、古くはギリシャやローマの都市住宅にも見られる建築様式のこと。奥村将士さん・かおりさん夫妻の住まいは、人や車の往来の激しい県道沿いにありながら、驚くほど静か。さえぎるものが何もない空を見上げる中庭をコの字型に囲むように、主寝室、キッチン、そしてリビングがあり、屋外と室内が一体化するような広がりは、まさにコートハウスの魅力といえる。「外とは別世界のようだね、って遊びに来た友人も驚くんですよ。ギャラリーですか?と聞かれることもしばしば」

 

1階は仕切りのないワンルーム。キッチンに立つとリビングや中庭を一望できる。

 

塀を高くし、交通量の多い道路に面していながらも、プライバシーを確保。また、近隣の建物や道行く人にも圧迫感がないよう、道路に面した建物の高さは低く抑えた。

シンプルに暮らす

もともと「視界には、自分の好きなものだけ」というのが、かおりさんのポリシーで、潔いほどにすっきりと片付けられた室内は、引き渡しから1年過ぎたとは思えない。開口部が多いため収納が少なくなったが、どんな小さなものでも、よく考えて買うことで、ものを増やさない努力もしているそうだ。

「家のつくり自体が、インテリアとしても十分に機能しているので、ことさら飾る必要がないのかも」。豊かな暮らしというのは、足していくことばかりではなくて、時には引き算の発想も大切だということを、光と風が自由に遊ぶこの空間は教えてくれる。

 

中庭をコの字型に囲むコートハウス。木の種類や形など、植栽にもこだわった。